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弁護士に依頼するメリットと問題点 - 札幌の弁護士|前田尚一法律事務所

弁護士に依頼するメリットと問題点

 

個人の債務整理(多重債務の処理)をする場合,自己破産,任意整理,個人再生手続などの手法があります。いずれの手法も,法律上は,自分自身でもできるものです。
債務整理は,法律上は本人が自分で処理することができます。しかし,実際には,法律知識や,交渉能力が必要とされ,弁護士等の専門家に依頼するのが通例です。

 

弁護士などの専門家に依頼した場合

弁護士等の一定の専門家に依頼すると,
(1)
自分で面倒な手続をする手間をはぶくことができます。このレベルは,依頼した専門家の資格の種類や,その専門家自身の技量に大きく左右されます。

(2) 受任した後は,債権者との対応は,弁護士等が代理人として行うことになるので,自宅や職場に,直接,連絡が来たり,請求されたりすることはなくなります。要するに,取り立てが止まる!!,という状態を得ることができます。

 

■参照
貸金業法(旧略称「貸金業規制法」)21条は,取立てにあたって禁止する「人を威迫し又はその私生活若しくは業務の平穏を害するような言動」の1類型として「債務者等が,貸付けの契約に基づく債権に係る債務の処理を弁護士若しくは弁護士法人若しくは司法書士若しくは司法書士法人(以下この号において「弁護士等」という。)に委託し,又はその処理のため必要な裁判所における民事事件に関する手続をとり,弁護士等又は裁判所から書面によりその旨の通知があった場合において,正当な理由がないのに,債務者等に対し,電話をかけ,電報を送達し,若しくはファクシミリ装置を用いて送信し,又は訪問する方法により,当該債務を弁済することを要求し,これに対し債務者等から直接要求しないよう求められたにもかかわらず,更にこれらの方法で当該債務を弁済することを要求すること。」を条文上明確にしています(1項第9号)。
それまでは,法律には明文で規定されておらず,解釈基準として金融監督庁の事務ガイドラインに,「債務処理に関する権限を弁護士に委任した旨の通知,又は,調停,破産その他裁判手続をとったことの通知を受けた後に,正当な理由なく支払請求をすること。」と規定されていましたが(旧3-2-2(3)②),ヤミ金融問題が大きな社会問題となったことから,平成15年7月の貸金業規制法改正(いわゆる「ヤミ金融対策法」)により,法律の条文上明確にされたものです。

 

司法書士に依頼した場合

ところで,司法書士が,債務整理に関し,さかんに宣伝をしており,弁護士に依頼するのと,司法書士に依頼するのとどのような違いがあるのかを尋ねられることがあります。

 

司法書士や東京方面の弁護士事務所が,債務整理に関し,HPのほかさまざまなメディアを用いて,さかんに宣伝をしています。そこで,自己破産・免責手続きや個人再生手続について,弁護士に依頼した場合の違い(メリット)について,説明します。

 

(1) 平成15年の司法書士法改正により,司法書士に、140万円以下の借金に関する交渉権と、訴額140万円以下の訴訟事件を管轄する簡易裁判所の訴訟代理権(「完済訴訟代理権」)が認められました(もっとも,すべての司法書士に認められているわけではなく,所定の研修を受け法務大臣の認定を受けなければなりません。)。
しかし,現在でも,弁護士と司法書士との間には,次のような決定的な違いがあります。

 

すなわち,過払い金請求など訴訟が必要な場合,過払い金が140万円を超える場合には,司法書士が扱うことはできません。
過払い金が140万円を超える場合であっても、弁護士は,原告代理人となって、地方裁判所へ過払い金返還請求の裁判を提起して過払い金を回収することができます。

 

ところで,債務者にとって,過払い金の回収が意味を持つのは,任意整理の場合に限られません。

 

個人再生の場合も,過払い金の回収を完了しても,すぐにすべて一括して弁済に回すことまで求められません。裁判所に認可された再生計画に従って,一定の減額を受け,分割弁済を続けるに当たって,回収した過払い金を少しずつ使ってもよいし,新たな収入の中から弁済ができる状況であれば,回収した過払い金を別の目的に使ってもかまいません。

 

また,自己破産の場合については,裁判所から,過払い金の回収を求められる場合があります。しかし,過払い金を回収すれば,そのうち一定額を債務者自身がつかえるようにすることができる手続もあります(「自由財産の拡張」)。裁判所の指示に従うということだけではなく,債務者にとっても,軽視できない重大な利害があるのです。

 

(2) 自己破産・免責手続や個人再生手続は,いずれも地方裁判所に申立てをしなければなりません。したがって,弁護士でなければ,申立代理人になることはできません。司法書士には申立代理権がなく,司法書士にはもっぱら書類を作成してもらうだけになります。
つまり,司法書士に依頼した場合には,あくまで本人が申し立てた扱いになります。
そのため,弁護士に依頼することは,司法書士に依頼する場合に比べて,大きなメリットがあります。
この点については,各手続の説明で行います。

 


自己破産の場合
個人再生の場合

 

 

しかし,残念ながら,弁護士に依頼したからといってメリットばかりというわけではありません。一部の弁護士らの行動が,依頼者に不利な事態をもたらして,社会問題化しています。

 

 

1 提携弁護士

従来から,提携弁護士と呼ばれる悪質貸金業者と組んだ悪徳弁護士の多重債務者に関する非弁提携行為が問題となっていました。
⇒ http://www.nichibenren.or.jp/ja/committee/list/hiben.html
日本弁護士連合会(日弁連)は,「多重債務処理事件にかかる非弁提携行為の防止に関する規則」を定めています。

令和に入ってからも,7月には,司法書士法人から「事件」紹介を受けていた大手法律事務所について,東京弁護士会が会内綱紀委員会に対し調査を命令した事例もあります。
⇒ https://www.sankei.com/affairs/news/190731/afr1907310001-n1.html

 

弁護士と依頼者間のトラブルが問題化しています

2 例えば,「過払い金返還請求の宴(うたげ)」と報じられていたが(『週間ダイヤモンド』2009年8月29日号),過払い返還請求を扱う弁護士と依頼者のトラブルが社会問題化しています。

例えば,平成21年7月11日の『産経新聞』朝刊は,「『利息返還金』困った弁護士が横行 債務整理トラブル多発」という見出しで, 《年間1兆円規模で推移している消費者金融からの「利息返還金」をめぐり、債務整理を請け負った一部の弁護士や司法書士に「手数料が高すぎ」などといった苦情やトラブルが相次いでいる。事態を重く見た日弁連が異例の弁護活動指針を打ち出したほか、消費者金融から「法曹の正義はどうした」という批判まで飛び出す事態になっている。

 


巨額市場に目がくらんだ一部の弁護士や司法書士が、ずさんな活動をしていることが原因のようだ。大都市圏の電車やバスに最近、「債務整理の無料相談」「いますぐ整理」「借金苦を解決」といった弁護士や司法書士事務所の活字が目立つ。地方テレビ局を中心に月1千本ものCMを流すところもあるという。》,《「面会もなく勝手に手続きを進める」「高い手数料を取られた」「広告に書いてある内容と違う」といった声が多いという。派手な広告で事務所の処理能力を超えた数の依頼を受け、事務が滞っているケースもあるようだ。

債務整理で稼いだ2億4千万円もの所得を隠していた司法書士の存在も明らかになった。》,《相次ぐ苦情に日弁連は23日、債務整理を受任する弁護士に向けて「指針」を打ち出した。弁護活動に関する指針ができるのは、極めて異例なことだ。指針では、「債務処理の目的は債務者の経済的更生にある」と明記。「依頼者(債務者)と直接面談する」「『家を残したい』といった依頼の趣旨を尊重する」「再度の融資が難しくなるなど、リスクを告知する」ことなどを求めた。》などと報じています。

 

事態を重く見た日弁連理事会は,平成21年7月11日,「債務整理事件処理に関する指針」を決議し,弁護士が債務整理事件の受任及び処理にあたり配慮すべきと思料される事項として,直接面談の原則,依頼の趣旨の尊重,過払い金返還請求事件を受任する際の原則,リスクの告知,報告についての指針を示しました。

 

その後も,債務整理事件とこれに伴う過払い金請求事件に関しては、これまで一部の弁護士に不適切な事件処理や報酬の請求を行う例が見られました。そこで、日弁連は、2011年2月の臨時総会で、一定の範囲の債務整理事件における弁護士報酬の上限を定めるなどの新たなルール「債務整理事件処理の規律を定める規程」を定めました。

全文は次のアドレスでご覧になれます。
⇒ 「債務整理の弁護士報酬のルールについて」

 

この指針を読んでみると,当たり前のことばかりが書いてあり,このようなことが守られていないのかと思うと,同業ながらただただ唖然とするばかりです。

 


弁護士 前田 尚一(まえだ しょういち)
前田尚一法律事務所 代表
北海道岩見沢市出身。北海道札幌北高等学校・北海道大学法学部卒。
さまざまな訴訟に取り組むとともに、顧問弁護士としては直接自分自身で常時30社を超える企業を担当しながら、弁護士として30年を超える経験、実績を積んできました。
交通事故、離婚、相続、債務整理・過払い金請求といった個人の法律問題に加え、労務・労働事件、クレーム対応、債権回収、契約書ほか企業法務全般も取り扱っています。


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