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『介護と法律』団体交渉と労働組合 - 札幌の弁護士|前田尚一法律事務所

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「労働組合対策・団体交渉・不当労働行為」
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『介 護 と 法 律』:「介護新聞」(株式会社北海道医療新聞社)

連載1 新型インフルエンザと介護現場の関係 
(平成21年7月 9日)
連載2 解雇のハードルは高い        
(平成21年7月16日)
連載3 団体交渉と労働組合         
(平成21年7月23日)
連載4 誤嚥事故と損害賠償         
(平成21年7月30日)
連載5 法律問題かどうかを嗅ぎ分ける能力を 
(平成21年8月 6日)

 

団体交渉と労働組合

【PDF版】

 

解雇は当人以外にも不快感を与える


 前回は,経営者は,解雇という方法によって容易に問題の解決を図れると判断しがちであるけれど,実際実行すると,裁判となって長期間消耗戦となった挙げ句,解雇無効と判断されることが多いということをお話ししました。
 

 多くの経営者にとって,このような展開だけでも想定外でしょうが,並行して,労働組合が組織されることも少なくありません。経営者の思惑とは別に,解雇といった労働者にとっては死活問題と意識される事情は,当人以外の多くの労働者にも,逼迫(ひっぱく)した不安感を巻き起こします。

 そして,このような労働者らを力強くバックアップする労働組合組織が存在します。多くの方が思い浮かべる大手の企業別組合など,労働組合員数や組織率が減少傾向にあるというのがわが国全体の傾向です。しかし,駆け込み寺としての機能を果たしている労働組合組織は,労働組合の「ロ」の字もなかった施設内に,支部あるいは単一の労働組合を結成させ,または,個人加盟を受け入れるといった様々な形態をとりながら,精力的に活動しています。

 

 こうして,施設内に組織された労働組合は,労働者らにとって,まさに死活問題を解決する唯一の方法と確信される中で活動を始めるのですから,当然過激となりがちです。しかも,結成の契機となった問題について一定の解決が図られた場合であっても,以降,経営全般を闘争の対象とし,その後も継続して活動するということも希(まれ)ではありません。
 
 

「覚書」署名で予想外の展開

 

 病院が,給食部門を外部委託することになり,従来その業務にあった従業員らを委託業者に転籍させようとした途端,労働組合が結成されたという事案があります。

 

 病院は,業者の教示に従いながら,従業員らの転籍を進めようとしていたのですが,ある日突然,上部団体の担当者らが訪れ,労働組合の結成通知を渡していきました。およそ1か月後のことですが,予想外の展開に慌てふためく病院側は,これからは,双方わだかまりをなくして,円満に協議しながらあるべき姿に向かっていきましょう,という上部団体担当者の言葉に活路を見い出せると期待しました。そして,いくつもの条項の中に「病院は職員の雇用と労働条件の変更(希望退職,解雇,配置転換,業務委託も含む)について,一方的な実施を避けて,組合と十分に協議して円満解決のうえ決定する」という定めが盛り込まれた「覚書」という書面に署名するに至りました。

 

 しかし,それ以降は,病院側にとって,およそ予想外の展開でした。団体交渉をするたびに,組合側は,上記の条項は,労使双方が合意した場合に限り労働条件を変更できることを定めたのだから,何事も全て労働組合が承認しない限り,病院は独自に何かを決めることはできないと宣言してきたのです。
 百戦錬磨のプロである上部団体の担当者らに太刀打ちなどできないことを知るべきでした。

 

 

団交には従業員以外の人間も出席できる


 

  今,団体交渉という言葉が出てきました。現場では,団体交渉は,団交と略して用いられるのが通例です。団体交渉権とは,労働者が使用者と団交を行う権利です。

 

 団交が始まると,真剣勝負です。団交には,上部団体の担当者など従業員以外の者も出席することができます。そのような人々が従業員と共に多数集まって団交に臨むことも珍しくありません。また,派遣従業員の雇用者は,派遣元のはずですが,派遣先を相手として団交をすることができるとされています。

 

 交渉中に,施設責任者の携帯電話がなった途端,「施設の中にいるのに,携帯を受けるにしておくこと自体,利用者の命や健康を軽視している。そんな人が,施設を経営していくことができるのか。」と罵倒(ばとう)され,あるいは,施設側の担当者の言葉遣いが圧迫的なのは問題だと主張しているのに,団交が始まるや,上部団体の担当者がその担当者に対し圧迫的に弾劾し続けるので,態度が矛盾するのではないかと指摘すると,団交では圧迫的でも許されるのだ,と平然と言い返す,そんなことを繰り返しながら,交渉が数時間に及ぶこともあるのです。

 

 抽象的には,団交が不穏当な言動や行きすぎた行動に及び社会的相当性を超える態様に至った場合は,使用者は団交を打ち切ることができるといわれます。団体交渉権は通常の生活では,面会要請や不退去という点で違法となり得る行動を一定限度まで免責するという効果が認められるのですから,社会的相当性といっても通常の生活のそれとは違ってくるはずです。実際,罵倒やつるし上げが為される中で団交を続けなければならない事態になることはよくあることです。

 

 

団交には従業員以外の人間も出席できる

 

経営者の中には,労働組合と交渉しても変えようがないというような場合には,話し合いの余地がない以上団交に応じなくともよいと考える方もいらっしゃるようです。

 

 しかし,そのような対応をとると,正当な理由なき団体交渉拒否として不当労働行為に当たるとされ(労働組合法7条2項),申立てにより,労働委員会という行政期間の救済手続で処理されることになります。理由があるとされた場合は,一定の命令に加え,今後同様の不当労働行為を行わない旨の文書を事業場の正面玄関等,訪問者の目に入る場所に掲示することを命じられることもあります(ポスト・ノーティス)。
 また,団交に応じたとしても,誠実交渉義務違反として,やはり不当労働行為に当たるとされる場合があります。

 

 これも予想かも知れませんが,団交に代表取締役自らはほとんど出席せず,その応対を専務取締役に任せきりにしていた場合,決算書などの資料を提出しなかった場合に,誠実交渉義務違反とされた事例もあるのです。

 

 従業員ばかりでなく多数の上部団体担当者らが訪れ,「理事長を出せ!」,「決算書を出せ!」と,長時間罵倒されたり,つるし上げられる中,あなたは,冷静に対処していくことはできるでしょうか。
 経営者は,労使問題,賃金等の労務管理に関する問題に加え,労使関係に関する法律問題について適応しなくてはなりません。

 

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(平成21年7月 9日)
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弁護士 前田 尚一(まえだ しょういち)
前田尚一法律事務所 代表
北海道岩見沢市出身。北海道札幌北高等学校・北海道大学法学部卒。
さまざまな訴訟に取り組むとともに、顧問弁護士としては直接自分自身で常時30社を超える企業を担当しながら、弁護士として30年を超える経験、実績を積んできました。
交通事故、離婚、相続、債務整理・過払い金請求といった個人の法律問題に加え、労務・労働事件、クレーム対応、債権回収、契約書ほか企業法務全般も取り扱っています。



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