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法律による有利な解決のためのプレゼンテーションをする!! - 札幌の弁護士|前田尚一法律事務所

札幌弁護士.com  前田尚一法律事務所がお届けする『知っ得【法律】情報』-vol.39-

法律を実践的なものとして身につけなければならない

オーナー社長の交通事故(死亡)の案件

“法律”を実践的なものとして身につけなければならない,という観点から,法律とプレゼンテーションというテーマでお話ししたい。
 実務家である以上,法律を事案の一定の解決を導くアイテムとして使えなければ意味がない。理屈のレベルでいかに素晴らしい議論ができても自己満足になりかねない。法律に関しても,問題の解決についての決定権限ある者に焦点を絞り,その者を動かすための説得力を持ったプレゼンテーションを企画実行することが不可欠だ。
 ここでは,私が担当した裁判を素材として話を進めていきたい。

 

 まず,現役ばりばりのオーナー社長(61歳)の交通事故(死亡)の案件から話を始めよう。

保険会社の提案をはねのけて裁判に持ち込んだ結果,3200万を超える増額となった事案だ(札幌地方裁判所平成9年1月10日民事第1部判決)。
 

保険会社が訴訟前に提示した最終金額は5900万円を若干超える程度。訴訟を提起したところ,裁判所は,8000万円を超える金額と損害金の支払いを認容したのである。相手が争ったため,事故から判決確定まで2年半ほどかかったのだが,その期間分の損害金も加算されて,私の依頼者たちは,合計9200万円余りの支払を受けることができたのだ。
 また,有用な理論も理屈のままでは絵に描いた餅である。例えば,訴訟において,依頼者の言い分である事実関係に争いがある場合,弁護士として,依頼者の言い分にあうどんなに素晴らしい理屈を見付けたとしても,それだけで,事は有利に展開はしない。証明すべき事実関係を証拠によってきちんと裏付けることができなければ,裁判に勝つことはできるはずもなく,依頼者の役には立てはしない。

争いは損害額全般に及んだが,特に重要な法律上の争点は,小規模会社の会社役員の場合の逸失利益の算定をどのようにするかということにあった。
 

「逸失利益」は,「得べかりし利益」ともいうが,死亡しあるいは後遺障害を負わなければ得ることができたはずの利益である(なお,逸失利益など損害の種類については,第3回を参照。)。被害者が死亡した場合であれば,事故に遭わなければ稼ぐことができた総収入から支出されたであろう生活費を差し引いたうえで(「生活費控除」),働けたはずの時期まで何年かかけて(「就労可能年数」)収入を得るはずの収入を死亡時で確定させることになるので先払い分の利息相当も差し引いて(「中間利息控除」)算定される。

 面倒なのは,総収入を計算するための基礎とする年収をどうするかということだ。サラリーマン(「給与所得者」)であれば,事故前の現実の給与を基礎とすればよいのが通常だから分かりやすい。小規模会社の会社役員の場合も,事故前の役員報酬を基礎とすればよいかというとそうはならない。
 サラリーマンであれば,労務を提供した対価として給与をもらう。しかし,小規模会社の会社役員の報酬の中には,そのような実際に稼働する対価としての部分(「労務対価部分」)だけではなく,本来株主として受けるべき利益配当等の実質をもつ部分(「利益配当部分」)も含まれることがある。そのような理屈で,逸失利益の算定の基礎収入から利益配当部分をを控除すべきであるとする裁判例が支配的となっている。サラリーマンであれ,会社役員であれ,被害者が失った不利益の中身は共通であるはずで,それは労務対価部分であると考えるのだ。オーナー経営者が死亡した場合,相続人は株主の地位を相続してその後は自分自身で利益配当部分を得ることになると想定すれば,理屈の上ではもっともなというほかない。
 
 本案件の裁判官も,この裁判実務上支配的な考え方にとらわれ,死亡した被害者がオーナー社長である以上,利益配当部分があるはずで,これを控除すべきだとして,この論理を機械的に適用しようとしたのだ。現に,裁判官が,訴訟の途中で提示した裁判所としての和解案も,逸失利益については,年収の90%を労務の対価分として逸失歴算出の基礎とするものであり,被告が原告らに支払うべき合計金額を6600万円余りとしたのだ。
 

このように実務上支配的と思われている論理がある場合,理屈だけで勝負しようとしても成果はない。
 そこで,なぜこのような理屈が生まれたのか徹底して考えてみた。私の結論は,この理屈は,経営者が,ぼろ儲けし過大な収入を得ていたような場合に,それを常識的な範囲に制限しようという裁判官の動機から生まれたのではないかということである。

 しかし,このことを抽象的に述べても,理屈の世界から抜け出すことはできない。突破口は,裁判官に,死亡した被害者が,決して過大な収入を得ていたわけでないことを十分に認識してもらい,実際の報酬額から一定額を引くと不当な結果となるということを実感してもらうことだ。

 

 このことがインプットされると私の潜在意識は,まもなく私にある資料に遭遇させた。学者の執筆した分厚い専門書などではない。『中小企業社長の収入と資産』という25頁程度の厚さの価格が税込300円の冊子だ。そこには,実態調査の結果から,中小企業社長の年収総額の平均が2169万円だということが明示されていたのだ。本案件の被害者の年収は960万円である。私は,この冊子を証拠として提出した。

 判決では,死亡当時得ていた収入は,すべて被害者の労務の対価であると評価するのが相当である,と判断されていた。珍しい事例となったのか,『判例タイムズ』という判例雑誌に「会社の代表取締役の死亡による逸失利益について現実の報酬を基礎として算定された事例」と紹介されたのである(990号228頁)。

 判決の中には,上記の冊子の記載については触れられておらず,「亡●●の稼働状況及び年収,△△の年収との対比,■■及び□□の業績等に照らすと,・・・」とコンパクトに説示されているだけであった。しかし,私は,裁判官に対し,中小企業社長の年収総額の平均を実体調査の結果として提示できたことが,本案件の解決のために,決定的なことだったと確信している。

 

 もし,発想を転換してこの冊子に遭遇しなければ,裁判官も,支配的考えを機械的に適用することとなり,遺族らが得られる金額は,和解案として提示された6600万円余りと大きく変わりはなかったであろう。遺族らは合計9200万円余りの支払を受けることができたのだから,途中までの裁判官の数字から実質2500万を超えた増額だ。

 なお,本案件は,第2回で述べたとおり,死亡あるいは重大な後遺症がある事案では,保険会社と示談してしまうより,裁判を起こした場合の方が,賠償金額が多くなるのが通常であることの具体例として挙げるのに適切な事例であるが,この点に関心のある方は,後遺症の賠償残額が57万円から1900万円弱になった事例も参考にして欲しい。

 

地区画整理に関わる案件

 次は,土地区画整理に関わる案件である(札幌地裁平成10年4月28日民事第5部判決,札幌高裁平成10年9月10日第3民事部判決)。

 私の顧問先であるA組合は,札幌市近郊で土地区画整理事業を行っている。

   土地区画整理事業とは,平たく言えば,雑然・混然なまま利用されていた一帯の土地について一挙に,土地の区画・形質をきちんとし,道路を通したり,公園を作ったりして公共施設を整備して,整然とした街づくりをすることだ。

 整然とした街づくりをしていく中で,土地の所有者は,元々の土地(「従前地」)の代わりに,別の土地を割り当てられる。従前地と重なる場合もあるが,離れた土地となる場合もある。公共施設用地のほか,土地区画整理の費用に充てるため第三者に売却する土地(「保留地」)も必要となするので,従前地に比べると,割り当てられる面積は減少することになる(「減歩」)。
 

 新たな土地の割当の確定は,「換地処分」という,土地区画整理事業の工事が完了した後に区域の全部について一挙に行われる手続によるが,工事完了まではかなりの年月を要することになるので,施行者は,工事の進捗も見ながら,仮の割当てをすることになる(「仮換地」)。

 施行者であるA組合は,Bの所有する甲土地周辺の工事の必要もあり,Bに対し,甲土地につき,乙土地を仮換地と指定する処分をした。BはAからの通知の郵便の受け取りまで拒否して明渡を拒み続けた。そこで,A組合はBに対し明渡訴訟を提起した。

 ところで,土地区画整理法100条の2は,仮換地を指定した場合など使用収益する者がなく空白状態となった従前地の管理権が施行者に帰属することを明確にしている。

 そして,最高裁は,「土地区画整理法100条の2の規定により従前の宅地を管理する施行者は,所有権に準ずる一種の物権的支配権に基づき,正当な権原なく右宅地を占有する者に対し,明渡を請求することができる」旨判示している(昭和58年10月28日第二小法廷判決・判例タイムズ512号101頁)

 A組合も,この判例によって当然に勝訴できそうである。しかし,担当裁判官は,難色を示した。

 本案件では,同時に,甲土地の一部を含む丁土地を,C所有の丙土地についての仮換地と指定する処分がされていた。そして,Cが丁土地について使用収益を開始することができる日は,A組合が別に定める日とされていた(施行者が土地区画整理事業を施行していくうえで,事業の進捗状況をみながら,「使用収益開始日」を「追って通知する」としておくこと(「追而指定」)は,実務上の必要が高く,判例でも認められており(最判昭60・11・29訟月32・9・204),多用されている。)。
土地区画整理法100条の2の原文に,「(仮換地に指定されない土地の管理)」という見出しが付けられていることからも明らかなように,施行者の管理の対象として本来的に想定されているのは,道路,公園等の公共施設となる予定地,保留地となる予定地等だ。

 

 前記最高裁判決も道路予定地に関する事案であり、その他公表されている裁判例も,道路予定地(名古屋地判昭63・5・27判時1300・81)や保留地予定地(最判昭50・8・6訟務21・10・1067)に関するものであって、いわば当然に施行者の管理地にならざるを得ない場合であった。

 担当裁判官は,追而指定がされているとはいえ,甲土地の一部が仮換地として指定されているとして,最高裁判例の論理を,本案件に適用することに疑問を呈したのである。
 前記1では,裁判官が支配的な先例に従うことにとらえわれたが,この案件では,先例がないことに,裁判官がこだわってしまったのだ。

 

 寸暇を惜しんで文献を探しても,この問題に直接に触れたものはみあたらない。ようやく,この点に言及した実務家の論稿が見つかった。しかし,「仮換地の指定を受けた人の協力さえ得られれば,(その仮換地の指定を受けた人が原告となって)民事的明渡し請求の方法をとることができる。」あるいは「施行者はいっそのこと「使用収益開始日」を「追って通知する」などとせず,効力発生日を即使用収益開始日とする。そうすれば仮換地指定を受けた者は仮換地上の支障物件の所有者等に対し建物収去土地明渡の訴を提起できるのである。」とするものだ(大場民雄『土地区画整理ーその理論と実際ー』210頁(新日本法規,1995年)、『続土地区画整理ーその理論と実際ー』29頁(新日本法規,1997年)、「新版縦横土地区画整理法上」424頁註(5)(新日本法規,1995年))大場民男弁護士)。施行者自身による明渡請求ができないことを前提とする見解と対処法を示すもので,かえって,当方には不利な内容だ。

 しかし,仮換地を受けた者が,施行者から,費用は持つから裁判をやってくれ,と頼まれても,途方に暮れてしまうだろうし,もし断られたら事業はストップしてしまう。本来,仕切るべき立場にあるのは施行者であって,このような場面でイニシアチブをとれないのは,いかにも不合理であるというべきである。

 

 沈滞ムードの中で,文献が見付かったのである。社団法人全国土地区画整理組合連合会が発行する『組合区画整理』という雑誌だ。その中に,「仮換地指定及び使用収益の停止の効果について」という標題の質疑欄があり,「仮換地指定又は使用収益の停止により使用収益することのできる者のなくなった宅地については,換地処分の公告日までは,施行者が管理することとされています(法第100条の2。このような土地は施行者管理地と呼ばれています。)。施行者管理地の具体例としては,公共施設予定地,保留地予定地,立体換地建物の敷地の予定地といったものが挙げられるほか,仮換地として指定された宅地であるが使用収益開始日が別に定められているため従前地の宅地の所有者等による使用収益が開始されておらず,かつ,その仮換地として指定された宅地についても別途仮換地が指定されている場合における当該仮換地として指定された宅地も,施行者管理地となります。」(下線は筆者。)と正に本事案の場合について,当方の立場に合致する解説がされていたのだ(14号45頁)。

 

 そして,この解説は,建設省都市局区画整理課によるものだった。つまり,雑誌中の質疑欄の解説とはいえ,ある種の公権的解釈を示すものだった。

 早速,証拠として提出した。この事件の判決には,「仮換地指定処分がなされた従前地にあたる係争地ついて,この係争地を仮換地とする指定が別途なされたが使用又は収益を開始することができる日が未だ定められていない場合,土地区画整理法100条の2により,換地処分がなされるまでの間,施行者が管理するものとなるとして,施行者自身が,係争地を権限なく不法に占有する者に対し明渡を求めることができる」と説示されている。

 

 その表現の中に,裁判官が上記のように難色を示したことの痕跡はまったく窺えず,疑いのない当然の論理であるかのように表現されている。しかし,前記1の事例と似たように,上記解説の記述が決定的であったことに疑いはない。

 なお,土地区画整理に関心がある方は『組合区画整理』に同じく私が担当した案件(札幌地裁平成9年6月26日民事第5部判決,札幌高等裁判所平成9年10月31日第2民事部判決)が,「仮換地指定後の従前地について,施行者の管理権に基づく妨害排除請求を認容した事案」として紹介されている(59号32頁)ので,ご覧頂ければ幸いである。

3 2つの案件を素材にお話ししたが,提出した文献といった,目に見えるアイテムの有用性,いわば戦術的な側面が強調されているように見えるかもしれない。しかし,いずれの案件も,より深い部分では,目に見えない戦略があったからこそ,上記のような展開になったものだ。もっと深くお話ししたい点もない訳ではないが,担当した裁判例だけでもまだまだ紹介したいものがあるし,紙面の都合に加え,守秘義務との関係もあるので,この程度で筆を置くことにしたい。

 

 



前田 尚一(まえだ しょういち)
前田尚一法律事務所 代表弁護士
出身地:北海道岩見沢市。
出身大学:北海道大学法学部。
主な取扱い分野は、交通事故、離婚、相続問題、債務整理・過払いといった個人の法律相談に加え、「労務・労働事件、クレーム対応、債権回収、契約書関連、その他企業法務全般」も取り扱っています。
30社以上の企業との顧問契約について、代表自身が直接担当し顧問弁護士サービスを提供。



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