一般予防のために、犯人の〝その後〟を追え - 札幌の弁護士|前田尚一法律事務所
一般予防のために、犯人の〝その後〟を追え - 札幌の弁護士|前田尚一法律事務所
(初出:財界さっぽろ2021年04月号)
前回のコラムでお話した通り、テレビでは朝から事件現場の投稿動画をもとに、さまざまな衝撃映像を放送しています。ドライブレコーダーで録画された危険運転や暴力・脅迫行為などが撮影されていることも少なくありません。
こうした映像に登場する人物の顔や車のナンバーには、ぼかしが入っていることがほとんどです。マスコミあるいは撮影者が、その後適切な対応をしていれば、警察も比較的容易に犯人にたどりつけるはずですが、大半は撮影しているだけ、放送しているだけではないでしょうか。
また、その犯人が社会的制裁を受けることになったのかどうか、どのような刑罰や処分となったかといった顛末の報道は、ほぼないというのが実情です。
凶悪・重大犯罪であればそれなりの後追い報道がありますが、次から次に目新しいニュースが報道され、大きな出来事も早々に忘れてしまうのが現代人の日常です。投稿に基づいて日々放映される映像については、その場の衝撃度が何よりの売りであり、その場限りの〝使い捨て動画〟ともいえるでしょう。
ところで、刑罰の目的や機能を深掘りすると、いわゆる〝目には目を、歯には歯を〟という考え方(同害報復・タリオ)が合理化された「応報」のほかに、「予防」の観点があります。
犯罪者が再犯しないように刑罰を与えることを「特別予防」といい、刑務所などではさまざまな再犯防止プログラムを受刑者や入所者に受けさせています。
一方、前科も何もない一般人の犯罪を抑止するのが「一般予防」といわれています。一般予防は、あらかじめ各種犯罪に対する刑罰が定められた法律が整備されていることに加え、犯罪を犯してしまった場合に、どのような刑罰が受けなければならないかをしっかりと周知していくことが決め手になるでしょう。
しかし、その場限りの衝撃映像の放映を繰り返すだけでは、少なくとも「一般予防」は難しいのではないでしょうか。つまり、犯罪抑止という役割を果たす報道ではないということです。
凶悪・重大犯罪さえなくなれば暮らしやすい社会になるというわけではありません。軽微な犯罪も当然のこと、モラルハザードといったレベルの迷惑行為も、それが恒常的・日常的に繰り返される社会ならば、常にストレスが蔓延し続ける不快な世界と言わざるを得ません。また、社会的制裁や刑罰を意識することなく、衝撃映像に触発されて類似の犯行に及ぶ模倣犯・愉快犯の増加も危惧すべきです。報道が一般予防につながることを切に願っています。
弁護士 前田 尚一(まえだ しょういち)
前田尚一法律事務所 代表
北海道岩見沢市出身。北海道札幌北高等学校・北海道大学法学部卒。
さまざまな訴訟に取り組むとともに、顧問弁護士としては直接自分自身で常時30社を超える企業を担当しながら、弁護士として30年を超える経験、実績を積んできました。
交通事故、離婚、相続、債務整理・過払い金請求といった個人の法律問題に加え、労務・労働事件、クレーム対応、債権回収、契約書ほか企業法務全般も取り扱っています。
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