【社外取締役設置の義務化】弁護士が社外取締役に就任することの意味 - 札幌の弁護士|前田尚一法律事務所
【社外取締役設置の義務化】弁護士が社外取締役に就任することの意味 - 札幌の弁護士|前田尚一法律事務所
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かいつまんだ話(要点)は,
『社外取締役は人選重要。中小企業も活用を!』
をどうぞ。
上場会社等に社外取締役を置くことが義務付けられました。
「物言う株主」が台頭してきた中、「コーポレート・ガバナンス(企業統治)」は、「不正行為の防止」ばかりでなく、「企業の収益性・競争力の向上」の観点で論じられ、我が国では、「上場会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上」が重視されています。
相談相手も批判してくれる人もいない中小企業のトップにとっても、社外取締役は、別の意味で重要な機能を果たします。
当事務所では、数多くの企業で顧問弁護士を務めてきた経験を活かし、社外取締役の就任もお受けしております。
我が国で、令和3年3月1日から、金融商品取引法で有価証券報告書の提出義務のある監査役会設置会社で公開会社かつ大会社であるもの(以下では、「上場会社等」と略します。)に社外取締役を置くことを義務付けた令和元年改正会社法が施行されました(改正会社法第327条の2)。
改正会社法は、令和元年12月4日に成立し、同年12月11日に公布されたものです。
この会社法改正は、平成17年に「会社法」が制定された後(それまでは、「商法」に会社法に関する部分がありました。)、平成26年改正に続く2度目の本格的な改正となります。
改正の内容は、株主総会の規律の見直しや取締役等の規律の見直しなど、これまでのコーポレート・ガバナンス(企業統治)の制度を一層強化することを重要な一つの軸とするものです。
第327条の2の条項そのものは、平成27年5月1日に施行された平成26年改正会社法に設けられたものですが、その内容は、社外取締役を置くことの義務付けをするものではなく、社外取締役を置いていない場合の理由の開示が求めらるものにとどめられていました。
もっとも、「『日本再興戦略』改訂2014」(平成26年6月閣議決定)により設置された東京証券取引所と金融庁を共同事務局とする有識者会議が策定した原案に基づいて、東京証券取引所が制定し、平成26年改正会社法が施行されて間もない平成27年6月1日から上場会社に適用している「コーポレートガバナンス・コード」(CGコード)」が、本則市場(市場第一部・第二部)の上場会社が2名以上の独立社外取締役を選任していない場合には、所定の報告書でその理由を説明することが求められています(CGコードや後述のスチュワードシップ・コードは、法律として「ハード・ロー」と性格付けられる会社法に対して、「ソフト・ロー」と呼ばれます。)。
そして、令和元年改正会社法が成立する前である令和元年7月の時点で既に、東京証券取引所の社外取締役の選任比率が、全上場会社において約98.4%、市場第一部においては約99.9%に達していました。
令和元年改正会社法で上場会社等に社外取締役を置くこととしたことについて、法務省民事局の立案担当者は、我が国の資本市場が信頼される環境を整備し、上場会社等については社外取締役による監督が保証されているというメッセージを内外に発信するため、会社法において、上場会社等には社外取締役を置くことを義務付けることとしたものである、と解説しています(法務省大臣官房参事官竹林俊憲編著『一問一答 令和元年改正会社法』)。
ここで「メッセージを内外に発信する」との表現を引用しましたが、公開型のタイプの会社における「株主総会にも変化の兆し」(江頭憲治郎東京大学名誉教授)とか、「物言う株主」(というと、村上世彰氏を思い出されるかもしれません。)が語られる状況、すなわち、年金基金・投資信託・・保険会社等の機関投資家、外国法人等や外国法人等がその推奨に従うことが多い議決権行使助言会社、そしてアクティビスト・ファンドと呼ばれる投資ファンドの動向にも最大限の配慮が必要となります(米国では随分と前から問題化されていました。P・F・ドラッカー『見えざる革命(The Unseen Revolution)』[1976]、同『未来企業(Managing for the Future)』[1992])。
実際、議決権行使助言会社であるインスティチューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)が、平成25年に、社外取締役が1人もいない企業の経営トップである取締役の選任議案について反対することを推奨したところ、平成25年3月株主総会を開催したキャノン、新日鉄住金等において、取締役選任議案の賛成率が8割を下回る事態となり、両社は翌年に、平成25年6月に株主総会が開催されたトヨタ自動車はその株主総会で、複数の社外取締役を選任するなどの対応がとられ、「伝統的巨大企業」が相次いで社外取締役を選任するという事態となりました(牛島信弁護士)。
なお、「物言う株主」(アクティビスト)の発揮する力は、「東芝、『物言う株主』3割に ハーバードが売却 CVCの買収左右」(日経電子版:2021年4月13日)といった見出しで報道されているところです。
東芝に関しては、「東芝・車谷社長「必然」の辞任、機能したガバナンス」なる見出しの記事(日経電子版:2021年4月14日)もありますが、コーポレート・ガバナンスが、会社法などの法制だけにかかわる問題ではなく、実際上の対応も重要である(神田秀樹東京大学名誉教授)ことからすると、事案はとても興味深いものです。
そして、中長期保有の株主との建設的な対話を図り、中長期的なリターン向上の拡大をはかるべく、平成26年改正会社が成立される前である平成26年2月に、「日本再興戦略」(平成25年6月閣議決定)に基づき金融庁に設置された有識者により、「日本版スチュワードシップ・コード」が、策定・公表され、実施に移されています。
社外取締役には、少数株主を含む全ての株主に共通する株主の共同の利益を代弁する立場にある者として、業務執行者から独立した立場で、会社の経営監督を行い、また、経営者あるいは支配株主と少数株主との利益相反の監督を行うという役割を果たすことが期待されています(法務省大臣官房参事官竹林俊憲編著『一問一答 令和元年改正会社法』)。
そして、社外取締役にガバナンス機能を期待する法制は、近年の諸外国の法制の潮流である、とされています(神田秀樹東京大学名誉教授)
「コーポレート・ガバナンス(企業統治)」とは、どのような形で企業経営を監視する仕組みを設けるかという問題ですが、不正行為の防止(健全性)[適法性ガバナンス]の観点だけでなく、企業の収益性・競争力の向上(効率性)[効率性ガバナンス]の観点からも論じられています(神田秀樹東京大学名誉教授)。
我が国では、従業員会社内で昇進してきた者が取締役となり、株式をほとんど所有しない従業員出身者である経営者が、徹底した「所有と経緯の分離」を背景に、株主総会を事実上支配してきましたが(「経営者支配」)、終身雇用、年功序列などを目玉とした「日本的経営」が効を奏しており、ステイクホルダーの不満は顕在化しませんでした。しかし、バブル崩壊に始まる1990年代以降の不況が続く中で、上場会社の経営者のあり方を巡ってコーポレート・ガバナンスについて論議がされるようになりました。もっとも、主に企業の不祥事防止の観点で議論がなされ、「企業不祥事」のたびに監査役制度を強化する法改正がされるという経緯でした(江頭憲治郎東京大学名誉教授)。平成元年からの日米構造協議の際、米国が社外取締役制度の導入を求めましたが、見送られていました。
社外取締役が経営者を監督する形態の導入というと、平成14年商法改正による「委員会等設置会社」(現行法では、「指名委員会等設置会社」)制度の創設ということになります。しかし、モニタリング・モデルをとることから外国人投資家からは評価を受けやすい形態であるものの、平成15年7月末までに60社以上が移行した程度であり、我が国では普及しない状況でした。
ところが、第二次安倍内閣において、コーポレート・ガバナンス改革が、アベノミクスの第3の矢である「成長戦略」の一環として位置付けられ、企業の内部留保を成長に振り向けることを目論んだ政府は、急速にコーポレート・ガバナンス改革を推し進めました。
すなわち、平成25年6月の閣議決定「日本再興戦略-JAPAN is BACK」、同年8月の「日本版スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会」設置、平成26年2月の日本取引所グループ「JPX日経インデックス400」設定、同年2月の「『責任ある機関投資家』の諸原則《日本版スチュワードシップ・コード》」策定・公表、同年6月の平成26年改正会社法成立、同年6月の閣議決定「『日本再興戦略』改訂2014-未来への挑戦-」、同年8月の「伊藤レポート」、同年8月の「コーポレートガバナンス・コードの策定に関する有識者会議」設置、平成27年3月の「コーポレートガバナンス・コード原案」策定、同年5月の平成26年改正会社法施行、同年6月の「コーポレートガバナンス・コード」適用、平成28年6月の閣議決定「日本再興戦略2016―第4次産業革命に向けて―』、平成29年2月の法務大臣から法制審議会への諮問、平成31年2月の法務大臣に対する答申、令和元年10月の閣議決定、国会への法案提出、同年11月可決・公布といった流れです。
「コーポレート・ガバナンスコード(CGコード)」では、コーポレートガバナンスとは、会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組みを意味するとしています。
そして、CGコードの目的・意義は、「上場会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上」とされ、会社におけるリスクの回避・抑制や不祥事の防止に限らず、健全な企業家精神の発揮を促し、会社の持続的な成長と中期的な企業価値の向上を図ることを志向し(「攻めのガバナンスの実現」)、中長期保有の株主との建設的な対話により、GSコードに基づくコーポレート・ガバナンスの改善に向けた会社の取組に、さらなる充実が図られることが期待されている(「中長期保有の株主との建設的な対話」)としています。
大会社かつ公開会社は、監査役会設置会社・監査等委員会設置会社・氏名委員会等設置会社という三つの選択肢があります。会社法が機関設計の選択制を認めたのは、ガバナンスの仕組みとして何がベストかは明確ではなく、その選択を各会社の判断に委ねることとしたものです(神田秀樹東京大学名誉教授)。ちなみに、令和2年9月現在で東京証券取引所上場会社3,676社中、監査役会設置会社は2,492社(67.8%)、監査等委員会設置会社は1,107社(30.1%)、指名委員会等設置会社は77社(2.1%)だそうです。
社外取締役の役割を考えると、その人選は重大です。
20世紀から21世紀にかけて経済界にもっとも影響力のあった経営思想家といわれるP・F・ドラッカーが「著名人で飾った陳列棚」と表現したような取締役会となっているのであれば(『現代の経営(The Practice of Management)』[1954])、みせかけばかりの社外取締役というほかありません。「不二家が俳優・酒井美紀さん起用」・「社外取締役 難しい人選」という東京新聞(2012年3月1日朝刊)の記事では、「知名度を利用した「広告塔」との見方がある一方で、社外取締役の人材不足という問題も指摘されている。」とリードし、京都大学大学院法学研究科の前田雅弘教授の「芸能人や著名人だからといって、社外取締役になることが必ずしも適切ではない、とはいえない」との話を紹介しつつ、「ただ、人選となると、経験陣から独立しながら会社の経営状態を理解している必要がある。」と述べられています。
ところで、『いとうまい子、上場企業の社外取締役に就任へ AI研究、会社経営の手腕評価され』というタイトルのネット記事(ENCOUNT 2021.11.24)に遭遇しましたが、こちらは、制度の趣旨をきちんと意識した、とても巧みな人選であると思います。
ここでは、弁護士が社外取締役に就任するメリットを紹介しておきます。なお、東京証券取引所が求める「独立役員」については、社外取締役び会社法上の資格よりも厳格な基準を定め、主要取引先等の業務執行者のほか、コンサルタントや弁護士等当該上場会社から多額の報酬を得ている専門家を除外しています。大企業を全面的にサポートしている大手ローファームの弁護士らの選任を問題視しているのかもしれません。
企業の内部から組織体制を変革することは容易ではありませんが、弁護士は社外取締役として、企業の外からコンプライアンス体制の構築により、コンプライアンス意識を浸透させることを推進することができます。
法律の複雑化と企業規模の拡大が進むところ、事業活動が気づかぬうちに違法な行為に結びつく可能性が心配されています。
弁護士を社外取締役・監査役に依頼することで、会社との利害関係がない法律の専門家により、外部からの法的に監視を行い、法令遵守を確保します。
対外的にコーポレート・ガバナンスが構築できている企業としてアピールすれば、株主の信用を得ることができます。
社外取締役に弁護士が入ることによって、会社の業務全般にリーガルチェックが行き届き、内部の違法行為が摘発される可能性が高まります。
特に、権限を持っている取締役や管理職による違法行為は、会社にとって重大な損失をもたらすかもしれません。
弁護士を社外取締役に就任することで、このような違法行為が発見される可能性が上がるため、法的リスクの未然防止が実現できることになります。
万が一、不祥事が発生した場合、弁護士が社外役員として、社内取締役とは異なった視点から不祥事を客観的に分析することが期待されます。
不祥事の具体的内容、発生原因、誰がどのような責任を負うべきかについて、業務執行に関与する取締役とは異なった公平かつ中立的な検討を行い、意見を述べます。
中小企業など閉鎖型のタイプの会社では、「所有と経営の分離」がなく、上場会社等のようなコーポレート・ガバナンスの問題はありませんが、社外取締役が別の意味で重要な役割を果たします。ここでは、さきほど紹介したP・F・ドラッカーの卓見をご紹介いたします。
「中小の同族企業の場合には、社外取締役会は大企業とは別の意味で重要な機能を果たす。中小企業のトップマネジメントには、相談相手もいなければ自らの意思決定を批判してくれる人ともいない。彼らは隔離されている。しかもマネジメントの人数が少ないために、マネジメントの人間の経歴や気質の多様性という、大企業のような是正措置をもつことができない。したがって、中小企業においても社外の人間を含む取締役会が必要である。」(『現代の経営(The Practice of Management)』[1954])
ただ、費用をリーズナブルにすることが懸案事項となるかもしれません。この点は、次で述べることにしましょう。
前田尚一法律事務所では、弁護士による社外役員(社外取締役・社外監査役等)の就任を承っております。
多くの企業・経営者の皆様から顧問弁護士としてご指名いただき、顧問弁護士として日々活動するなかで培った知識と経験をもとに、社外役員として貴社のガバナンス、コンプライアンスの充実に貢献させていただきます。
中小企業の経営者の方にとっては、費用的な問題もあるかもしれません。社外取締役のご依頼より、顧問弁護士としてのご依頼を受けた方がよい場合もあるでしょう。そのような場合は、ご遠慮なさらずご相談ください。当事務所の「顧問契約」についてはこちらを、「セカンド顧問」についてはこちらをご覧ください。
企業経営においては、労務問題・労使問題、売掛金などの債権回収、契約書の作成・チェック・管理など様々な「法律問題」に直面します。
当事務所は、弁護士経験30年を超える経験と実績を持つ弁護士前田尚一が代表として、企業が直面する問題の予防・解決を始めとして、特に中小企業の「企業法務」全般に注力して信頼を得てきました。
企業法務に関する実績の一部はこちらをご覧ください。
顧問弁護士とするなどして企業法務関連の問題をお手伝いした解決事例はこちらを、お客様の声はこちらをぜひご覧ください。
当事務所が、「会社法務」に取り組むのは、経営者・管理者の皆様が、「トラブル」・「紛争」に時間と労力を奪われることがなく、経営に専念できるようサポートするためです。
我が国で、1990年代以降の不況に至るまでコーポレート・ガバナンスが積極的には論じられなかったのは、前述のとおり、上場会社においては、「日本的経営」が成功し、従業員出身者経営支配の下で、全ステイクホルダーがい一応の満足を得られていたからでした。そして、日本的経営成功の背景には、「和をもって尊しとする」という社会に刷り込まれた作法があり、この作法が我が国において社会を支える基本でした。
ところが、法律が問題となる場面では、それを主張するかどうかはともかく、問題を論理的に詰めないと物事の本質が見えず本当の問題点はわかりません。そのために、専門性に裏付けられた知識と経験を備えた弁護士が必要となります。
しかし、弁護士に期待すべき重要なことは、自分の置かれた状況を把握できること、したがって、よい弁護士とは、トラブルの個性や特殊性を具体的に把握し、今後どのように解決するのが適切かを分かりやすくきちんと説明できることが不可欠です。そうすると、実力不足の弁護士は論外として、弁護士と相性が合うかどうかという人間関係の原点のような部分も重要です。
社外取締役として、幅広い業種の企業の顧問弁護士と、法廷弁護士業務も含め多種多様な案件を戦略的に処理してきた経験を活かし、法的思考を切り口とした企業の問題点を洗出しから始まり、コーポレート・ガバナンス体制を強化し企業の成長に貢献させていただきます。