《失敗続きの日本半導体、失敗の分析をしないことが失敗》
日経(2023年6月29日 5:00)の記事のタイトルです。
冒頭で、「日本政府が2021年から、半導体分野への怒濤(どとう)の投資を続けている。その予算額は23年6月時点で公表されているだけでも1兆円超。その象徴が、最先端半導体の量産を目指すファウンドリー(製造受託企業)ラピダスだ。実は、これまでの日本の半導体戦略は幾多の失敗を繰り返してしまった歴史がある。ラピダスの成功のために過去の分析が必要だ。」とリードした上で、
「日本半導体復権のため、最先端半導体を少量多品種で量産するファウンドリーを設立。日本の代表的な半導体メーカー11社が出資し、国費から約300億円を出資する」を、「02年に設立されたASPLA(アスプラ)という企業」であると、過去の例として挙げています。
そして、このアスプラ失敗について、
「ところが、アスプラでの各社共通プロセスの整備を待っていると、他社との競争に出遅れてしまうという事態が生じるようになってしまった。結果として、出資各社は自前で90nm半導体を製造し、次々に提供。アスプラが出る幕はなくなってしまった。」となどと経緯を説明した上、
「ただ、記者はさらに根深い失敗の原因があると考える。優柔不断な国家・企業の戦略や、柔軟性のない経営判断。そして、そもそも「なぜ失敗したのか」という徹底分析がこれまで十分でなかったのではないか。」と問題提起し、
「これまでの国家プロジェクトは、成功か失敗かを明確にしてこなかった。外から見ると明らかに失敗に見えるプロジェクトでも、なぜ失敗したのかという分析はまずされない。このため、失敗を知識として活用できていないのだ」「2000年代の半導体戦略プロジェクト・みらいを率いた廣瀬全孝氏は始動時、「日経マイクロデバイス」の取材に対してこう語っている。」
と識者の見解を引用した上で、
結論として、
「このような場で、未来の話だけでなく、同じところでつまずかないために過去の徹底分析をしてほしい。」とまとめています。
一見、とても分かりやすい展開であり、結論も受け入られそうです。
しかし、出資した半導体各社の取りまとめが難しかったのと同様、
「過去の徹底分析」を公式に明らかにするのは,著しく難しいことです。
徹底的な分析のためのデータを山のように収集することはできますが、「俺を誰だと思う」と言いかねないご歴々が集められるであろうこのような事業において、「過去の徹底分析」を一定レベルまで総括し、結論としてまとめることは、関係者その全員の顔を立てるための調整も必要となります。
まとめができたとしても、それは抽象的で具体性のないものになってしまい、実際の知識として活用できるレベルにまで仕上がるのはほぼ不可能だと推測されます。
エピソードで断片的な話となりますが、私が受任した案件おいて、事前に社内で、天下りの役員も含めて、事件の処理について話合いがされたことがありました。
「私の前職の時代は………」などと言うばかりで民間実務の実情を知らない的外れな意見を無視することができず、適切な解決策から逸れるばかりという状況が生じました。
意見を述べた人物が、実際に紛争を引き起こした当事者、戦犯といえる存在であった場合、目も当てられない事態というほかありません。
このような事態は現実に存在します。
ダイバーシティという言葉が社会で広く認知されるようになり、その後、多様なステークホルダーや集団を尊重することが求められるようになると、こうした調整に対する取り組み方を検討していかなければならないでしょう。
私は、重要な意思決定プロセスに関与する場合は、制度上の機関の上に事実上存在しているであろう集まりを想定して、参加メンバーを少人数に絞ることを求め、企業の規模や事案の規模に関わらず、最大でも5人までの集まりで議論や打ち合わせを行うことを実践しています。