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ツルハホールディングス:「創業家の支配」と攻撃する「アクティビスト(物言う株主)」、「議決権行使助言会社」との攻防・対峙 - 札幌の弁護士|前田尚一法律事務所

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ツルハホールディングス:「創業家の支配」と攻撃する「アクティビスト(物言う株主)」、「議決権行使助言会社」との攻防・対峙

 

 ツルハフォールディングに突き付けられた「創業家」問題については、8月10日の株主総会で、会社提案が可決されて以来、1月ほどで、マスコミが、この「創業家」問題を話題にすることもなくなったようです。
 しかし、一般に、「創業家」問題は、その後、発火する材料を抱えていることも多いようで、「創業者」側で適切に対応しておかないと、外部、時には内部から火が付けられた時期によっては、大火事となることもあります。

 ちなみに、後で述べる、この株主総会前からの、ニデックの相手の同意がないまま買収提案を公表(「同意なきTOB」)については、この総会後1か月余りの時点で既に、

ニデック永守氏「同意なき買収はM&Aのモデルケース」
(日経電子版 2023年9月14日 18:30 )

 「創業家」というと、創業家出身者が経営トップの座を追われ、一旦落ち着いた会長職も解かれたエレベーター大手のフジテックと対照的に、任天堂創業家の資産運用会社であるヤマウチ・ナンバーテン・ファミリー・オフィス(YFO)が、機関投資家アクティビスト物言う株主)として動きまくるのは興味深いことです。

 

私は、違う考えではありますが、
株主総会後の、ツルハ創業家問題にかんするまとめ記事
狙われる創業家ガバナンス 「外部の目」理解する人材必要
(日経電子版 2023年9月6日 2:00)

株主総会前の攻防・対峙の一般的な問題状況
東洋建設やフジテック、攻防の裏側 かじ取り役は誰に?
株主総会’23 問われた企業統治》
(日経電子版  

 ところで、この株主総会開催の少し前、次のような出来事が取り上げられていました。

《中国電、旧経営陣3人に損害賠償請求へ カルテル問題》
 日経電子版(2023年8月4日 2:00)のリードは、

「中国電力は3日、法人向け電力の販売を巡る関西電力とのカルテル問題で、清水希茂前会長と滝本夏彦前社長、渡部伸夫元副社長の旧経営陣3人に損害賠償を求める訴えを広島地裁に起こすと発表した。公正取引委員会からの排除措置命令などを前提に、3人に善管注意義務違反があったと判断した。請求額は今後精査する。」

 企業も早々にこのような対処をしなければ、世間(ステークホルダー)を完全に敵に回しかねない時代になりました。

 

 それでは、本題に入ります。
8月10日、株式会社ツルハホールディングスの定時株主総会が開催されました。

ツルハホールディングスの開示資料
第61回定時株主総会招集ご通知

 ツルハホールディングスの定時株主総会を巡っては、「アクティビスト(物言う株主)」であるオアシス・マネジメント(ツルハホールディングスの株式の13%強を保有。香港の投資ファンド)が株主提案し、ツルハホールディングス側はすべての株主提案に反対し、社外取締役4人の選任議案を提案しています。

 ツルハホールディングスの選任議案について、「議決権行使助言会社」のインスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)が、ツルハHDの選任議案について反対を推奨し、グラスルイスは、賛成を推奨しています。
 ツルハホールディングス側は、M&A(合併・買収)に悪影響だ」と述べています。

 

1「創業家の支配」をテーマとするアクティビスト(物言う株主)、議決権行使助言会社との攻防

 この展開を、日経電子版から拾ってみました。

イオン、ツルハHDの会社提案に賛成表明 株主総会で
(2023年8月1日 16:30)
米助言グラスルイス、ツルハHD取締役選任案に「賛成」
(2023年7月28日 16:45)
米助言ISS、ツルハHDの取締役選任案に「反対」》
(2023年7月27日 11:58)
オアシス、「経営監督が機能不全」 ツルハ創業家を批判
(2023年7月7日 21:55)
北海道企業に広がる株主提案 23年はツルハ、北洋銀行も
(2023年7月4日 5:00 )
ツルハ、アークス、サツドラ…「透明性」確立急ぐ
(2020年9月9日 17:00 )

 

 二つ目の《米助言ISS、ツルハHDの取締役選任案に「反対」》の記事では、次のとおり記述しています。

「米議決権行使助言会社のインスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)は27日までに、ツルハホールディングス(HD)が提案する社外取締役4人の選任議案について反対を推奨した。香港の投資ファンド、オアシス・マネジメントが提案する弁護士や小売企業の元経営者ら5人の社外取締役選任議案を賛成推奨した。ツルハHD側は社外5人を含む取締役10人の選任などを提案し、オアシスによる株主提案への反対を表明している。」

 

 ちなみに、オアシス・マネジメントは、北陸3県では最大手のドラッグストア中堅でイオングループに属する株式会社クスリのアオキホールディングスに対しても、株主提案するなどしています。

《クスリのアオキHD、オアシス指摘に反論「事実誤認も」》
(日経電子版 2023年8月8日 19:45)

「クスリのアオキホールディングス(HD)は8日、同社株主で香港投資ファンドのオアシス・マネジメントからガバナンス(企業統治)などに問題があると指摘されたことへの反論を公開した。……。オアシスは7月に開示した資料でガバナンスなどの課題を指摘し、創業家出身の青木宏憲社長らの取締役再任案に株主総会で反対票を投じるようほかの株主に呼びかけている。」

 

 

2 ツルハホールディングスの見解・オアシスの提案・ISSの表明

 ツルハホールディングスの見解、オアシスの提案、ISSの表明は、次のとおりです。

議決権行使助言会社ISS 社の推奨レポートに関する当社取締役会の見解
(2023.7.28 株式会社ツルハホールディングス)

ツルハにおける創業家支配に対するけん制機能発揮のために、ISSはオアシスが提案する5名の取締役すべてに賛成推奨を表明
(2023.7.28 オアシス・マネジメント・カンパニー・リミテッド(プレスリリース))

7月19 日のオアシス開示資料に対する当社取締役会の見解
(2023.7.28 株式会社ツルハホールディングス)

オアシスによるツルハの虚偽・誤導的な開示への対応および株主の皆様へのオアシスが提案する独立社外取締役選任への賛同の要請について
(2023.7.19 オアシス・マネジメント・カンパニー・リミテッド(プレスリリース))

 

株式会社ツルハホールディングスに対する株主提案への対応について
(2023.8.1 イオン株式会社)

 

3 公開会社と「アクティビスト(物言う株主)」、「議決権行使助言会社」との関係

 高名な法学者は、「公開型のタイプの会社の株主総会の変化の兆し」として、次のように説明されています(江頭憲治郎『株式会社法 第8版』[2021年。有斐閣])。どろっとした部分をとりあえず横に置いて、事態の枠組みを理解する上で、とても参考になります。

「公開型のタイプの会社の株主総会にも変化の兆しが見られる。

上場会社の大規模なものにおいては、機関投資家(年金基金、投資信託、保険会社等)、外国法人等の持株比率が高いが、機関投資家には、「日本版スチュワードシップ・コード」によって、自己の顧客・受益者(年金受給者等)に対する責任として、株主総会の議決権行使の方針の策定・公表等が要求されており、また外国法人等は、議決権行使助言会社の推奨に従い、一斉に経営者が提案する議案に対して反対の議決権行使を行う例が少なくない。

中小企業の上場会社(とくに遊休資産の多い会社)に対しては、アクティビスト・ファンドと呼ばれる投資ファンドが、相当の株式を取得した上で、経営改善の要求を行う例が増えている。

このように、公開型のタイプの会社の株主総会も、経営者が容易にコントロールできるものではなくなりつつある。」

 

 

 

4 経営陣に日常・平時からあるべきとされる対策

 〇 IRの腕を磨いて、ともに価値向上を目指す投資家を株主として迎える。

「株主選び」が企業価値高める
(日経電子版 2023年7月4日 2:00)

「経営者が考えるべきは、どんな視点で何を言う投資家を株主として迎えるかということ。」とし、「こうした「ターゲティング」の手法が日本で広がりつつあるようだ。……。もはや物言わぬ安定株主に頼れないのであれば、企業に必要なのは伴走者や助言役として、ともに価値向上を目指す株主だ。今こそIRの腕を磨こう。見ている投資家はきちんと見ている。」

と述べる論者もおられます。

*記事中で推薦されている文献
浜辺麻紀子『「株主との対話」ガイドブック』
(2023年 中央経済社)

 〇 創業家によるガバナンスの意義を認め、それに対してインセンティブ(誘因策)をとる。

同族上場企業の存在意義は
(日経電子版 2023年7月4日 2:00)

「創業家がガバナンスを放棄することが増えれば、長期的な視野と短期的な規律の両方を志向する企業が減り、日本の産業界にとって大きなマイナスになる。そうならないようにするために、規制当局や証券取引所は創業家によるガバナンスの意義を認め、それに対して何らかのインセンティブ(誘因策)を真剣に考える時期にきているのではないか。」

と述べる論者もおられます。

 

5 企業価値の向上策を建前に繰り広げられる経営陣と株主の攻防

東洋建設やフジテック、攻防の裏側 かじ取り役は誰に?
株主総会’23 問われた企業統治
(日経電子版 2023年7月18日 4:30 )

 
 ともあれ、資本効率や多様性など企業価値の向上策を建前に繰り広げられる経営陣と株主の攻防は、「TOB」(株式公開買付け)、「MOM」(「マジョリティー・オブ・マイノリティー)といった制度的手法が現れたり、「創業家の支配」を攻められる企業がある一方、「アクティビスト(物言う株主)」として、機関投資家・任天堂創業家の資産運用会社「ヤマウチ・ナンバーテン・ファミリー・オフィス(YFO)」が登場したりで、攻防の裏側も含め、目を離せないところです。

 

東洋建設の株主総会 買収目指す任天堂創業家が”実質勝利”
(テレ東BIZ 2023.06.27 14:30)

フジテック前会長提案の社外取 賛成比率12~13%台
(日経電子版 2023年6月27日 2:00)

コスモHDの買収防衛策、対立株主含めたら否決の票差
(日経電子版 2023年6月27日 13:39)

 

 

6 永守重信会長兼最高経営責任者(CEO)のニデック(旧日本電産)による同意なきTOBの実施

 ところで、M&Aというと、

   《ニデック、15年ぶりの雪辱戦
          工作機械会社に同意なきTOB

 これも日経電子版(2023年7月15日 2:00 )の記事の見出しで、記事の始まりは次のとおりです。

「ニデック(旧日本電産)が工作機械メーカーのTAKISAWAにTOB(株式公開買い付け)を実施する。相手先企業の経営陣の同意を得ないまま開始される公算が大きい。過去に手掛けた71件の実績のなかで「敵対的買収」は一つもないが、試みたことはある。ニデックにとっては15年前の苦い記憶を払拭する雪辱戦の意味合いもある。」

 

 この記事には、次のような記載もあるが、6月からパブリックコメントが募集されている経済産業省の「企業買収における行動指針(案)」で示される政策の潮流の関連も踏まえ、その後の報道を見ていると、こちらもなかなか興味深いものがあります。

「あれから15年、ニデックと東洋電に対する株式市場の評価は対照的だ。ニデックの株価(分割考慮)は1700円台から、7500円台(13日終値)へ4倍以上となり、東洋電の株価(併合考慮)は1500円台から960円へ4割下落した。株主の立場でみれば、ニデックの傘下に入った方が、東洋電の株主は経済的利益を享受できた可能性が高い。」
 

 

7 今後の展望(イオンの意見表明、株主総会の結果を待つまでもない結論)

 イオンが意見表明する前の論稿ですが、私は、棚橋慶次氏の『株主総会迫る……ツルハはアクティビストの攻勢を無事乗り切ることができるのか』(DCSオンライン 2023年7月27日 5:55)で述べられた次の結論には、株主総会での結論はもとより、イオンの明示の意見表明を見るまでもなく想定できるもので、説得力があります。

「……。

となると、オアシスの今回の株主提案が、果たして大株主たちの賛同を得られる見込みもないまま闘いを挑んだのかどうかという点が焦点となろう。その意味で、8月に予定される株主総会は“最終決戦”ではなく、長い闘いの序章になることさえ考えられる。ツルハは、株主総会を乗り切った後も、資本政策見直しや競合との業務・資本提携といった対策が迫られるところだ。」

 

8 [附]ツルハホールディングスの定時株主総会開催以降

 

ツルハHD、株主総会始まる 香港ファンド提案賛否問う
(日経電子版 2023年8月10日 11:05)

ツルハ株主総会、会社提案を可決 創業家の体制継続
(日経電子版 2023年8月10日 13:13 )

「ツルハHD側は「恣意的な印象操作だ」と反論し、株主には会社側提案に賛成するよう求めていた。株主提案が否決されたことで取締役会長職は廃止されず、鶴羽会長を筆頭とした経営体制は維持される。
  ……………………
イオン幹部は「今総会で大きな貸しをつくった」と語る。ツルハHDとの新たな連携を強化する足がかりにする考えだ。イオンとの連携について、鶴羽社長は「今後も連携強化は検討していきたい」と話した。」

ツルハ、次の成長戦略が焦点に 株主総会は会社案可決
(日経電子版 2023年8月10日 19:13 )

 

ツルハ、経営陣続投も火種
総会、ファンド提案否決も、狭まる出店余地で再編機運

(日経電子版 2023年8月11日 2:00)

 

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弁護士 前田 尚一(まえだ しょういち)
前田尚一法律事務所 代表
北海道岩見沢市出身。北海道札幌北高等学校・北海道大学法学部卒。
さまざまな訴訟に取り組むとともに、顧問弁護士としては直接自分自身で常時30社を超える企業を担当しながら、弁護士として30年を超える経験、実績を積んできました。
交通事故、離婚、相続、債務整理・過払い金請求といった個人の法律問題に加え、労務・労働事件、クレーム対応、債権回収、契約書ほか企業法務全般も取り扱っています。



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