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「取引先などを訴えて企業間紛争を解決する
:民事訴訟の活用法」はこちら
1「米半導体製造大手、IBMを提訴 ラピダスへの技術共有で」・「ラピダスとIBMの蜜月に横やり 米半導体製造が提訴」
日経電子版の二つの記事(2023年4月20日)のタイトルです。
半導体受託製造大手で、2015年IBMの半導体部門を買収したグローバルファウンドリーズ(GE)は、2023日4月19日、ニューヨーク州の連邦裁判所に提訴しました。GEは、IBMが半導体部門をすでに売却したにもかかわらず、知的財産と企業秘密をラピダスなどの提携企業に開示して、ライセンス収入やその他の利益を不当に受け取っていると主張しています。
ラピダスは、2022年12月、IBMと共同開発パートナーシップを締結しました。ラピダスは、最先端半導体の国内生産を目指し、同年8月、NTT、トヨタ自動車、ソニーグループ、ソフトバンクなど日本の主要企業8社が出資して設立された会社です。研究開発から量産に必要な投資額は5兆円規模となるとされ、北海道千歳市で同社として初の工場を建設すると発表しています。国際競争が増す最先端の半導体製造を支援し、経済安全保障を強化しようとする経済産業省は、2023年4月28日の時点で、計3300億円を発表しています。
GlobalFoundries Files Lawsuit Against IBM to Protect its Intellectual Property and Trade Secrets
米国の訴訟や知財に詳しい弁護士は、営業秘密はどの企業に所属するかという立証が難しいため、今回の訴訟でラピダスの開発が直ちに止まることはないだろうと話しているとのこと(牧野和夫弁護士)。
しかし、そのうえ、提訴を通じてIBMと(特許を相互利用する)クロスライセンスを結び、最先端品への参入の足がかりにするのではないかとの見方もくすぶる、というのであれば、権利の実現とか、民事紛争の解決といった観点ばかりではなく、端的に、企業同士で、市場確保・競争優位といった観点から裁判所への提訴が活用される米国の訴訟社会のでよくある姿が見えてきます。
2 日本の企業関係訴訟:企業同士が原・被告となる訴訟(企業間取引訴訟)の増加とその背景
できれば穏便に話合い解決したいという考えが強い日本でも、
著名な元・裁判官から、「これまでの企業関係訴訟では企業が被告となる案件が多かったが、平成10年前後から、徐々に企業同士が原・被告となる訴訟が増えてきた。これが、企業間訴訟であり、企業間取引をめぐる紛争は起業化集うの死活問題となることさえある。こうした状況の下、企業においても、企業間取引紛争を司法の場で決着をつけようとする姿勢が顕著になっており、この傾向は、大都市圏から地方都市部までに及んでいる。」との指摘があります(加藤新太郎前東京高等裁判所判事(部総括))。
しかしそうであっても、大企業の場合については、
経営の透明性を高めるという意味合いから、裁判所の判断を仰ぐケースがかなり増えているという印象がある、と述べられている。また、安易に話合いで解決すると、今度は株主代表訴訟を起こされるということで、訴訟を英紀して裁判手続で解決する方がよいという考え方もないわけではないと述べられています。
なお、質・量、程度が個々具体的に局面を、真っ向から、「既存の具体的条項の隙間を見つけては、それを次図からの利益に利用しようとする者は従前から存在していましたし、そうするのが法律に通じた者の賢い振る舞いであると考える風潮はむしろ従前よりも強くなっているとすらいうことができます。」などと一般化して抽象的に論じられる元・裁判官もおられ、裁判所側の訴訟観も日米で質的に違うことも否定できません。
3 日本の実例
ただそうはいっても、日本でも、穏便に話合いで解決とか、経営の透明性などとは言っておられない局面での訴訟も見られます。
(1)スルガ銀行対IBM訴訟:認容額41億円余り
スルガ銀行・IBM間で締結されたシステム開発契約に基づくプロジェクトがシステムの開発に至らずに頓挫した責任はいわゆる「プロジェクト・マネジメント義務」に違反した乙にあるとして甲が乙に対して115億8000万円の損害を求める請求で、41億7210万3169円が認容された事例
(東京高裁平成25年9月26日判決(最高裁の上告棄却・不受理の決定で確定)。第1審判決の認容額は74億1366万6128円)
(2)ヤマトホールディングス対荏原製作所訴訟:認容額59億円余り
荏原製作所から物流ターミナル等の建設を目的として土地及びの建物(以下「本件建物を代金848億円(本件土地について785億円,本件建物について63億円。いずれも消費税込み)で買い受けたが本件土地から広範囲にわたって発見されたスレート片が石綿を含有していたとして,本件売買契約に基づく瑕疵除去義務の不履行又は本件売買契約上の瑕疵担保責任に基づく損害賠償合計85億0509万5193円を求める請求で、59億5278万3219円が認容された事例
(東京高裁平成30年6月28日判決(最高裁の上告棄却・不受理の決定で確定)。第1審判決の認容額は56億1812万4016円)
4 中小企業の場合
大企業の場合について上記のように説明される弁護士層からは、「中小企業といってもいろいろだと思いますが、特に経営者の方の力が非常に強い場合ですと、法務担当者はもちろんいるのですが、担当者としては穏便に話合いで解決したいけれども、経営者の方が頑として許さんと、訴訟になってもいいから絶対に譲るなと、こうなると訴訟になる確率が高くなる。このようなことが事実としてあることは否定できないですね。」などという発言が主流であるように思われます。
しかし、そのような分析は一面的であると思います。
争いばかりを好むことが適切とはいえないとしても、徹底して闘わなければ解決できない場面・局面が多々あります。「早期解決」との美辞麗句に飛びついて拙速に妥協をし、不完全燃焼のまま事を納めて、将来に火種を残すことはよくあることです。
中小企業の場合、その企業の経営の在り方に熟知した経営者自身があるべき解決を追求し続けることができ、有効かつ有益な解決方法を選択することができるという特恵に目を向けなければなりません。
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